好き、嫌い、好き、嫌い―――
・・・はぁ。

イルカは花びらにふれていた手の動きをピタリと止め、後ろにあった木にドンと背中からもたれ掛り、大きくため息をついた。
きっと、何度も何度も花占いをしたのだろう。足元には、数えきれない花びらが何枚も舞い落ちていた。
「嘘でもいいから、なんで好きって出ないんだろう・・・」




勇気のきっかけ。恋のきっかけ。好きの始まり。




そう一人で呟きながら、イルカはその場に膝を抱えて座り込んだ。
空はとても清々しく、雲ひとつ無いと言うのに、イルカの心は淀んでいた。
「・・・俺、こんな所で一人、何やってんだろう」
イルカの目に、うっすら涙が浮かぶ。辺りは静かで、小鳥のさえずりや、遠くの方からは微かに子供達の笑い声が聞こえてくる。

そんな静かな中、気配を消してイルカの背後にこっそり近づく怪しい上忍の姿があった。
そろり。そろり。
「イルカ先生っ、何してるんですか!」
カカシが、イルカの肩をポンと叩く。
「わーーーーーーッ!!」
猫背になっていたイルカの背筋が、一瞬にしてピンと伸びる。
「もぉ〜、イルカ先生ってば、そんなに驚かなくてもいいじゃないですかぁ。そんなにびっくりされると、さり気にショックだったりするんですよ?」
カカシはイルカの前に回り込むと、体を少し前のめりにしてイルカの顔をひょいっと覗き込んだ。
「イルカ先生ーv」
嬉しそうに、イルカの名前を呼ぶ。
「・・・カカシ先生。貴方は、何でいつもいつも・・・」
「なんですか?」
イルカは気づかれぬよう急いで涙を拭き、カカシをキッと睨んだ。
「カカシ先生、今日は何の用ですか?用事が無ければ、失礼します!」
珍しく、キツイ口調でイルカがカカシにつっかかる。
「・・・用事がないと、声かけちゃいけないんですか?」
そう言うと、カカシはイルカの前に座りこんだ。




こんな情ない顔、この人にだけは見られたくない――




急いでその場を去ろうと思っていたイルカだったが、カカシが目の前に座ったせいで、そのタイミングを失ってしまった。
お互いの間に、重い沈黙が流れる。
イルカは黙って座り込んだまま、相変わらずの体制をとっていた。
「あ。あの雲、イルカ先生に似てませんか?」
カカシは、上空に浮かぶ一つの雲を指差した。
「え・・・」
「ほら、あの雲。イルカ先生の笑った顔に雰囲気が似てますよね。・・・こんな澄んだ空見てると、なぜかイルカ先生を思い浮かべちゃうんですよねぇ、俺。」
カカシの目線は、一つの雲から大きな空へと向けられた。イルカも、カカシの目線を追って、チラリと空を見上げる。
「やっと、上を向いてくれましたね。イルカ先生」
「えっ」
「さっき、泣いてたでしょう?俺にバレないように隠せたと思ったら、大間違いですよ。何で泣いてたか、俺には聞く権利がありますよね?」
「泣いてなん・・・―――っ!」
ムキになって、カカシに言い訳をしようとした瞬間、カカシはイルカの唇を強引に奪った。
「―――んっ、な・・・」
「何で泣いてたか、教えてください。言わないと・・・」
カカシは、左手でイルカの背中にスッと手を伸ばす。
「わーーーッ!昼間から、ななな何してるんですかっ!?分かりました。言います、言いますからっ!!」
カカシは、ピタリと左手を止め、まだ少し紅いイルカの目をジッと見つめた。
「・・・だって、花占いが・・・」
「花占い?何ですか、それ」
カカシは、きょとんとした顔でイルカを見る。
「えっ、何ですか・・・ってカカシ先生。アナタ花占いを知らないんですか!?自分の好きな相手の事を思いながら、こぅ、花びらを一枚一枚ちぎっていく占いですよ!?」
「へぇ〜。イルカ先生の好きな人って誰なんですか?」
「そんなの、カカシ先生に決まってるじゃな・・・」

―――しまった!!

「ふぅ〜ん」
カカシは、にやにやしながらイルカの顔をジッと見つめる。

ちくしょう。俺はまた、まんまとこの人にしてやられた!!

「イルカ先生。アナタの口からそんな言葉が聞けるなんて、凄く意外ですよ。俺は、何度も好きって言ってるのに、イルカ先生は一度も言ってくれた事無いじゃないですか。これでも結構、気にしてたりするんですよ?
よく知りませんけど、イルカ先生が言ってるハナウラナイのおかげですね。」
イルカは、目が点になった。
この人は、本当に知らないんだろうか―――
「・・・花占いって言うのは、最後に残った花びらで、相手が自分の事をどう思っているかがわかるんです。好きで終わったら好きだし、嫌いで終わったら、嫌いなんです」
「ふぅ〜ん。占い・・・ねぇ。俺もやってみようかな」
そう言うと、カカシはスッと立ち上がり、近くにあるコスモスの花を何本か取って、イルカの前に戻ってきた。
「好きな人の事を思いながら、花びらをちぎるんですよね。好き、嫌い、好き、嫌い・・・」
カカシが何の照れもなく、自分の目の前で花占いを始めた事に、イルカは赤面した。
「・・・好き。イルカ先生、俺の事好きですね!?好きで終わりましたよ!?」
カカシはまるで子供のように、無邪気な笑顔でイルカに話しかける。
「はい。イルカ先生も俺のことを思いながらやってみてください」
カカシは、イルカにもう一輪のコスモスの花を差し出した。


好き、嫌い、好き、嫌い、好き―――。


何度やっても、嫌いで終わっていたのに・・・。
「イルカ先生、俺達は両思いでしょう?例え、花占いの結果がよくなくても、現に俺はこんなにイルカ先生の事が好きなんですから。ね?」
「・・・はい。」
イルカは思った。この人は、本当に自分の事を思ってくれていると。
「イルカ先生。お願いだから、一人で泣かないで?」
今度は、逆にカカシが泣きそうな顔をしていた。

俺は、こんなにこの人を不安にさせていたんだ・・・

イルカはコツンとカカシの額に、自分の額を合わせた。
「もぅ、一人では泣きません。カカシ先生こそ、一人で泣かないで下さいよ」
「大丈夫。俺は泣きませんから」
「ぷっ。何ですか、その自信」
やっと、イルカの顔に笑みが戻った。
それを見て、カカシも笑う。
そして、そのまま二人の唇がそっと重なり合う。
「んっ・・・カカシせんせ・・・」
「離さない。何があろうと、俺はアナタを絶対離さない・・・」




足元に舞い落ちた、沢山の花びら。
今となってはもう用はない。



空の雲は、ただただ風に流されて、ゆっくりと動いていく―――







今回は、花占いを入れて見ました。
季節感、ゼロでごめんなさ・・・こにょごにょ。
イルカとカカシの二人は、何があっても
一緒に居て欲しいです、私が個人的に 爆
カカシ、萌え〜!!