ある日のこと。
いつもの様にイルカの家に向かうカカシは、一枚の白い封筒を手にしていた。
足取りは、重かった。
ガチャリとドアを開け、嬉しそうに暖かい光と共にカカシを迎え入れるイルカの笑顔を見て、カカシは急いで白い封筒をポケットへ押し込めた。


「いらっしゃい」
1週間ぶりにやっと会えた事がよほど嬉しいのか、にやける顔を隠せないイルカ。
反対に、カカシの表情はいまいちピンとしない。
「・・・カカシ先生?」
イルカは、カカシの少しの変化も見逃さなかった。
「・・・イルカ先生、俺たちが恋人同士だった事、忘れませんか」
いきなり、イルカにカカシがそんな話題を振った。
笑顔だったイルカは、一瞬で真顔になる。
目の前にいるカカシを見ると、いつになく真面目な顔をしていた。
「イルカ先生。俺達、別れましょう」
イルカの目が、大きく開く。
「・・・・え、今なんて言いました?」
「別れたいんです」
「なっ・・・また冗談を。カカシ先生のそうゆう嘘には、もう慣れまし・・」
「冗談じゃないです。別れたいんです」
カカシは、イルカが話し終わるのを待たず、そう言った。

「・・・本気ですか?だって、俺の事好きだって言ってくれましたよね。あれも・・・あれも、全部嘘だったんですか!?」
珍しく、感情を激しく表に出して怒るイルカ。
そんな様子をカカシは目を閉じて、チラリと見ようともしない。
ただ、黙って下を向いているだけだった。
そして、部屋のドアをバタンと閉め、カカシは出て行ってしまった。

「ちょっと待っ・・・」

イルカは、何が何だか解らない様子で、カカシを迎え入れた体制から一歩も動けなかった。
「俺、遊ばれたのか・・・」
そう呟くと、風呂場に駆けより、まだ水は冷たい季節だと言うのに、頭からシャワーをかぶった。
瞬く間にイルカの体は濡れ、頬に流れる水は、涙かそうでないかさえ区別がつかなかった。
ドン!・・・・ドンドンドン!!
イルカは、壁を激しく叩く。
「・・・カカシ先生・・っ・・・」
声が声にならず、イルカは必死でもがいた。
「俺は、もうこんなに貴方を愛しているのに。そうさせたのは、貴方なのに。
俺の気持ちが手に入ったら、もう用済みですか。こんな・・・こんな事・・・っ」
イルカは、その場にへなへなと崩れ落ちた。
「・・・信じない・・・信じるもんか。もう一度、あの人の口からきちんと確かめるんだ」


イルカは濡れた姿のまま、外へ飛び出した。