そんな頃、カカシはと言うと、イルカより悲惨な状況に落ち入っていた。
イルカの部屋のドアを閉めたカカシ。もう、二度とここには来れないだろう。
そんな事を思いながら、夜道をあてもなく歩く。
一歩、また一歩・・・。歩く度に、二人の距離はどんどん離れて行く。
途中で、ピタリとカカシは立ち止まった。
「もう、こんなに離れてしまった・・・」
そう呟くと、カカシは道端の草むらのにゴロンと寝転び、以前、イルカと一緒に星空を見た事を思い出していた。
空には、あの時と同じ様に星がキラキラと輝いていた。

「カカシ先生、この星一つ一つには、意味があるんですよ。知ってますか?」
「意味?星なんて、どれも同じですよ」
「いいえ、違います。星は、人間と同じなんです。星たちは、自分自身で輝く力が無いんです。
太陽の力をかりて、初めて星は本当の星になれるんです。俺も、この星と同じです。
カカシ先生と一緒に居る事で、俺は輝く星になれるんです」

あの時は、他愛のない世間話として気にも止めなかったカカシだが、今になってやっとイルカの言いたかった事が解るとは、
なんと皮肉なのだろう。


俺も、あの人によって輝かされていた―――


今の俺は、輝いていない星だ。ましてや、あんな酷い事を言ってしまった・・・。
満天の星空を見上げながら、カカシは一筋の涙を流した。
「イルカ先生、貴方を一生愛し続ける事を誓います・・・」
そう誓った瞬間、カカシは両手で顔を覆いつくした。
「っ・・・なんでこんな事に・・・」




ハアッ、ハアッ・・・
イルカは、靴を履くのも忘れるほど、必死で走った。
そして、やっとの思いで、草むらに寝転んでいるカカシを見つけた。
ピタリとイルカの足が止まる。
カカシは、ちらりと横目でイルカの姿を見て、驚いた。
「なっ!その足・・・」
イルカの足は、血で真っ赤になっていた。きっと、どこかの石か何かで切ったのだろう。
「へへっ・・・こんなの、どうって事ないですよ」
カカシは、イルカの姿に見入る。
「それよりカカシ先生。俺は、ちゃんとした理由を知りたいです。理由もなく、ただ別れようなんて言われても、納得いきません。
俺、絶対別れませんから」
そう言うと、イルカはカカシの横にゴロンと寝転んだ。
勇気をふりしぼったイルカの行動も、カカシに会えたと言う事で、緊張の糸が切れた。
もう、何もかもが限界だった。
ショックと寒さで足はガタガタ震え、手の感覚は無いに等しかった。
「こんな所まで、そんな姿で追いかけてきて・・・。でも理由は・・・」
イルカのどこに、そんな力が残っていたのだろう。
ガバッっと起き上がり、カカシの顔をジッと見つめた。
「言えない。ですか。今の俺には、もう聞く権利もないんですか」
さすがのカカシも、愛している人にそこまで攻め寄られると、決意が揺らいだ。
もう、隠し通す訳にはいかなかった。

「イルカ先生、俺・・・暗部に戻ろうと思うんです。そんなヤツとなんて、貴方の方が嫌でしょう」
「なっ。暗部・・・」
「あるヤツが俺の力、まぁ正確には俺の左眼に協力を求めて来てるんです。あいつの頼みを、今の俺には断れません」
「何で!何で断れないんですか!その暗部の人と、どうゆう関係なんですか!」
「・・・」
「カカシ先生!!」
「協力を求めているのは、俺にこの左眼をくれたやつの恋人・・いや、元恋人です。そいつは、俺を憎んでいる。
この左眼が俺にある以上、俺はあいつのしがらみからは逃れられない・・・。
こんな狂った運命に、イルカ先生を巻き込む訳にはいかないじゃないですか。これ以上、俺に言わせないで下さい。」
「狂った・・・運命」
イルカは夜空を見上げ、大きく息を吸って、こう言った。

「一つ一つの星には、意味がある。その輝きにも、意味がある。」

「・・・」
「俺達には、俺達なりの意味がある。その輝きにも、意味がある。
カカシ先生が決めた事です。俺、暗部に行く事は止めません。でも、帰ってくるのを待っててもいいでしょう?
カカシ先生、自分一人では誰も輝けないんです。もちろん、貴方を恨んでいると言うその人も。そして、貴方も俺意外では輝けませんからっ!」
「・・・ぷっ。すごい自信ですね。いつの間に、そんなに強くなったんですか?」
「貴方を取り戻すためなら、何でもします」
「・・・一年。それ以上は、待たないで下さい。一年経っても帰ってこなければ、俺は確実に死んでいます」
「・・・はい」
「ありがとう。イルカ先生」
そう言うと、カカシはイルカのまだ濡れている髪をなでながら、別れのキスをした。

甘くて、そしてとても切ないキス―――

「行ってきます」
「はい。必ず・・・いえ。一年後の今日、ココでまた逢いましょう」
そう約束を交わすと、カカシは握り締めていたイルカの手を放して、去っていった。
イルカの手には、カカシの温もりがいつまでも残っていた。


神様。お願いします。
俺たちの光を遮るものを、すべて消してください―――


イルカは、自分の手にそっと口づけをする。
どうか、どうか、あの人が生きて帰ってきますようにと、願いを込めて・・・




どうにか初連載、無事終了・・・。
はい、そこ。カカシはどうなるの?なんてツッコミはしないように!!
と、とにかく、終われてよかったーーー!!